不整脈の歴史は、古代ギリシャや古代中国で。
不整脈という病気は、紀元前から知られていました。古代ギリシャではBC335年にヘロフィロスが、古代エジプトでは脈拍と心臓の関係についてパピルスに記載が、さらには古代中国では紀元前501年(伝説)での扁鵲(へんじゃく)、の記録があります。そこには、「利尿、強心、下剤、殺鼠剤」として用いる海藻のことが書かれていて、古代から心臓の治療はされていたらしいです。
不整脈は、英語ではArrhythmia と書きますね。この英語をみてわかるように、rhythm(リズム)という単語からできています。Rhythmという単語は分解すると、rhe- または rrhe- という接頭語で成り立っています。この接頭語の語源は、ギリシャ語のrheos (eの文字の上に点)(ながれ)という言葉です。
脈はまさに、ながれ。それも、調和のとれた均一な流れです。これは、どの地域の人類も感じることですが、自然=流れととらえやすいです。このことの一例は、ギリシャの哲学者ヘラクレイトス(BC544-484)の『自然について』という書籍をのこし、「万物は流転する」(パンタ・レイpanta rei)と書いたことがとても有名です。
rheoという言葉にまつわるギリシャ物語
さらにrheoという言葉について調べてみましょう。まず、女の子につける名前として人気があります。ギリシャ神話にトロイア戦争にでてくる登場人物でKallirrhoe カリロエー(編集部へ:oの文字の上に点、 eの上に横線)という河の女神がいます。Kalosは美しいという意味なので、美しい流れという名前です。また、リズム、流れというものは、音楽に通じます。
もちろん医学の父ヒポクラテスも使っています。エーゲ海の中にコス島という東西40km・南北8kmの島があります。この島は、医学の父ヒポクラテスが講義をした場所として有名なのですが、彼が教えた大きな木がプラタナスの大樹です。彼のこの場所での教えの一つが、rheoについてです。流動物や分泌物rheuma(eの文字の上に点)の教義です。彼は、この流れが乱れると病気になると教えました。ここから弟子たちが、月経menorrhea、出血hemorrhage、などの言葉が生まれてきました。リウマチrheumatoidも同じ語源です。
ちなみに、有名なヒポクラテスの誓いは、コス島の中心部の山頂のアスクレペイオン聖域から発信されました。ローマ皇帝のマルクス・アウレリウス・アントニヌスの侍医ガレノスもペルガモンのアスクレペイオンで学びました。
17世紀、脈の測定の研究からすべてが始まる。
大きな発見があったのは、17世紀、 イギリスのハーヴェイが「血液循環説」で、血液は、心臓から動脈を通じて臓器にながれ、静脈から心臓にもどるという循環を考えました。イタリアのサントリオが振り子装置をもちいて「脈拍計」を発明します。脈拍にあわせて紐の長さを調節しリズムがぴったりのところの紐の長さを図ります。人類の歴史で最初に、脈を定量的にできたのです。その後、1887年ウォーラーが初めて人間の心電図の記録に成功し、アイントーフェンが心電図を発展させていきます。
心臓は電気信号で動いていることに人々は気が付き、外から電気刺激をする方法で「心臓の治療」になるという考えはごく自然に生まれたようです。18世紀には心臓に電流を流す実験が行われ、20世紀に生まれたのが人工ペースメーカーです。 投薬やペースメーカーのほかに、現代の医療ではレーザーを照射する最新医療まではじまりました。カテーテルアブレーションです。この方法は、胸を切らなくても良い心臓手術で1982年にアメリカではじめて治療がスタートしました。日本では1994年から保険適応となり、その後は急速に普及が進んでいます。
心臓のアンチエイジングの考え方から性ホルモンも注目
不整脈は、女性の場合は更年期からでやすいことが知られています。以前からこの現象は性ホルモンが原因ではと考えられてきました。最近の研究で、性ホルモンが心臓の細胞の形成を左右している重要な役割を担っていることがわかってきました。2017年の研究では心臓のもとになる幹細胞が性ホルモンで成長の仕方が変わると発見されたのです。さまざまな治療が出てきましたが、次の時代は、性ホルモンが不整脈に用いられるようになるかもしれませんね。
では、今回はここまでで。お読みいただきありがとうございます。