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ユニコーンは、北欧の薬学シンボル

ユニコーンは、北欧の薬学シンボル

神秘的な野獣ユニコーン。みなさんご存知のように、ユニコーンは想像の動物です。白い美しい馬の体に、二つに割れた蹄、そして、特徴的な一本の大きな角。昔から魅了される美しい動物の一つですね。
医学のシンボルといえば、蛇。日本医師会のシンボルも杖と蛇です。でも、これはギリシャ-ローマ世界のこと。北欧では、ユニコーンがシンボルのように思われています。では、今回の連載は、ギリシャから離れて、イギリスを舞台に進めていきましょう。


ユニコーンの歴史は数が多いのです。西インド諸島、エチオピア、アジア、東インド諸島、どこにでもユニコーンのもとになる一角獣(ギリシア語の「モノケロース」)があります。ユニコーンという名前も、ラテン語の ūnus 「一つ」と cornū 「角」を合成した形容詞 ūnicornis (一角の)からできています。多くのイギリス人が、ユニコーンの原型の決定版と思っているのが、アレキサンダー大王(紀元前356-323年)の愛馬ブーケパロス(古希: Βουκέφαλος)です。ただし、金色の角を身に着けた大きな黒馬だったそうです。


ユニコーンの実在は、12世紀と13世紀の多くの書籍が書かれました。さて、ここから連載のテーマが出てくるわけですが、ユニコーンの角は薬になると思われて、薬学とつながり始めます。調べた範囲で一番古い記録では、紀元前5世紀に繁栄したカリア(現在のトルコ共和国の地方)の出身のギリシア医師であるクティシアスです。彼は角を飲み薬にすれば、毒を中和し、痙攣やてんかんの予防に役立つと考えました。この研究は、古代ローマの記録者アエリアヌスに引き継がれました。クティシアスの記録を引用して、『動物の特性について』(220年頃)を残しています。中世になると、ユニコンーンの角は、蛇毒や狂犬病、熱や傷を治すために使われています。中毒や傷は、角の一部を患者の近くに置くことによって治癒されるとさえ言われていました。


ユニコーンの角、じつは、イッカクというクジラの歯なのですが、とうとう王室まで信頼する薬になります。スコットランド女王メアリー・スチュアート(1542-87)は食べ物の毒をユニコーンの角が役立つかどうか実験しました。いまでもイギリス人に親しみを込めてクイーン・オブ・スコットランドと呼ばれている人です。それは、同時代のエリザベス1世と比較して、エリザベス1世が終身独身で子供がいなかったことに対して、メアリーの子孫は現代まで続き、イングランド・スコットランド王、グレートブリテン王、連合王国の王は、すべてメアリーの直系子孫だからなのです。ただ、残念なことに、彼女がユニコーンの角と信じて飲んでいたのにかかわらず、メアリーがエリザベス1世から追われ処刑されたときに、リウマチや痛風は進行していました。


17世紀のフランスの医師ギー・パタンは、瀉血による治療法を考えた医師です。彼は、ユニコーンの角はそのときパリに流行していた疫病に役立つと信じていました。1656年に出版された狂犬病の治療に関する書籍では、『手に入れることができれば、ユニコーンの角は治療薬になる』とされていました。


同時期ユニコーンは芸術と紋章の中にも登場します。それはやはり、医学と通じる題材として描かれました。貴婦人と一角獣(フランス語 : La Dame à la licorne)というタペストリーが有名です。パリで下絵が作成され、15世紀末のフランドルで織られ、ながらく行方不明でしたが、1841年ブーサック城で発見され、1882年にフランス政府が買い取り修復しました。5つタペストリーは感覚を表しています。l’odorat(嗅覚)、l’ouie(聴覚)、legoût(味)、la vue(視力)およびle toucher(接触)。 中心のタペストリーは「我が唯一つの望み」(A mon seul désir)といいます。すべて当時、ユニコーンの角の薬でなおると思われていた分野ですね。


ユニコーンは、紋章にも採用されます。スコットランドのジェームス3世は、金貨の紋章をユニコーンにしました。スコットランドの盾はユニコーンの柄です。そして、現在のイギリスの国章には、ユニコーンとライオンが描かれます。
この時期ユニコーンの存在に疑問が持たれ始めていました。1678年のウィリアム・サーモンは、学術誌にて多くの人がユニコーンの存在について疑念を抱いていたが、その疑惑は「聖書」に言及されているため論じられてきていないと語りました。一方で、角の薬効は信じていて、医学的に 解毒、解熱、体力改善などが認められることも記載しています。1695年にハーブの研究者で知られる植物学者ニコラス・カルペパーは、角には利尿剤の役割があることを認めました。18世紀半ばまでには、薬としての価値はなくなりましたが、多くの人にユニコーンが薬剤としての健康のシンボルとして定着したようです。
現在も北欧では、薬剤関係の紋章にユニコーンが用いられます。1617年に設立されたロンドンの薬剤師協会(Society of Apothecaries)は、2匹のユニコーンを紋章にしました。いくつかの薬剤の瓶にもユニコーンが描かれています。イギリスへ旅行に行くことがあったら、ぜひユニコーン探しをしてみてください。きっと薬局関係のビルや王室関係の建物です。

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