ケルトの白い馬
イギリスの子供たちがワクワクして読む歴史小説、ローズマリー・サトクリフの作品“〜ケルトの白馬〜 Sun Horse, Moon Horse”。青銅器時代、ケルト族の入植者よりも前のイギリス南部丘陵地帯にて馬を飼育する「馬族」Iceniイケニ族を描いた物語です。酋長の若い息子ルブリン・デフは、リトル・ダーク・ピープルという祖先の容貌をしてました。イケニ民族は侵略戦争に負けてしまいます。ルブリンは、のこされた一族を救うために、地上絵を描くことを承知します。、この土地を離れる前に、イケニ族がルブリンの指示通りに故郷の丘の芝土を剥がして白亜の地層が露出するまで地面を掘り下げていくと、真っ白な馬の姿が残りました。
イギリスに存在するイングランド南部の111mの地上絵『サンホース』は、アフィントンの白馬とも言われ、紀元43年のローマ軍侵攻のブリテンの先史時代の代表的遺跡です。太陽にあわせ、東西を走る馬は、石灰層の白い光で輝きます。こうしたモニュメントは世界に多く存在ます。ギリシャ神話の太陽の戦車にとるヘリオスや、インドの七頭の馬をもつ太陽神スーリア。ヒトはなぜ、馬に魅力を感じるのでしょうか?
太陽を駆ける馬といえば、私に連想されるのはメスの若い美しい馬。妊娠したメス馬の尿は治療に応用されました。尿を生成して作ったものが、現在更年期障害などで用いる治療用エストラジオールの始まりです。この物語には直接関係はありませんが、性ホルモンの専門家としてちょっと書きたいところです。
馬は人類の言葉に多くの影響を残しています。医学の父HippokratesヒポクラテスのHippoは、hippos(馬)というラテン語です。馬を御する人という意味です。フィリップという名前は、馬からとっています。沈まぬ国スペインを作った王フェリペ2世、フランス王にはフィリップ王が6世もいます。スペイン王の名前からアジアの国フィリピンが命名されました。
馬をHipposというのは、ギリシャ神話のポセイドンの愛馬Hippocampusヒッポカンバスが語源です。この愛馬は、前が馬、後ろが魚という怪獣でした。脳の中にある海馬というホルモンの中枢機関は、その形がヒッポカンバスに似ていたので、hippocampusと命名されました。馬尿酸はhippuric acidもhippos由来の言葉です。
イケニ族は、移住してEpidi族とよばれ、馬神エポナ(Epona)を神としたのです。後世の人は、イケニ族やエピディ族をケルト民族と呼びました。エポナは、アフィントンの白馬が造られた古代ケルト時代は、馬の姿のままでしたが、その後ローマ神話に取り込まれ西洋全体に広がり、馬にまたがる女神像になりました。旅人や死後の世界の旅の守護者で、道端にお地蔵さんのように像が祭られました。日本にもよく似たものがあります。馬頭観音像です。馬頭観音は、インドのハヤグリーヴァという神でしたが、日本では独自の文化を作り、馬を使って通る道に祭られました。エポナも馬頭観音もヒトの歴史と共に健康を祈る神になっていきます。馬という存在は、ヒトとともに歴史を作ってきたのです。