SGLT2阻害薬(エンパグリフロジンなど)は、心不全治療において中心的な薬剤とされています。特に左室駆出率(LVEF)が保たれた心不全(HFpEF)に対しては、他の薬剤よりも高いエビデンスがあり、積極的に使用されるべき治療薬としての地位が確立されてきました。
しかし、実際の臨床では、SGLT2阻害薬の使用について迷うこともあります。特にSGLT2阻害薬には利尿効果があるため、利尿薬と併用する際にその効果が重複するのか、有効性に変化があるのか、デメリットがないのかといった疑問が、多くの医師に生じることでしょう。
本論文では、HFpEFに対するエンパグリフロジンの効果を示すEMPEROR-Preserved試験の対象患者の利尿薬使用データから、利尿薬の有無だけでなく、用量別でもエンパグリフロジンの心不全や心血管イベントの抑制効果が確認されました。これまで疑問に思っていた内容が解消されるような結果であり、この論文に注目したのです。
私の解釈: この研究では、利尿薬を使用している患者は、NYHA(ニューヨーク心臓協会)心機能分類やBNP(脳性ナトリウム利尿ペプチド)値が高く、心不全の重症度が高い傾向が見られました。
また、利尿薬の用量が増えるに従い、イベント発生数も増加していましたが、利尿薬の使用有無や投与量に関係なく、エンパグリフロジンの使用によって心不全による入院や心血管死のリスクが低下することが示されました(ハザード比:利尿薬使用群0.81[95%CI 0.70-0.93] vs 利尿薬非使用群0.72[同0.48-1.06]、交互作用P=0.58)。
さらに、エンパグリフロジンの使用によって、利尿薬の投与量が減る可能性が高まり(ハザード比0.74、95%CI 0.65-0.84)、利尿薬の投与量を増やす可能性が低下することも報告されました(同1.15、1.02-1.30)。
これらの結果から、エンパグリフロジンの効果は利尿薬の使用に関係なく見られ、それらの併用に問題がなく、かつ利尿薬の投与量を減らす可能性も明らかになったと言えるでしょう。
日常臨床への応用: この研究から、エンパグリフロジンの効果は利尿薬の使用とは無関係に見られることが明らかになりました。ただし、実際に使用する際には、患者の脱水リスク、年齢、合併症の状態などに応じて、個別の症例ごとに利尿薬の量を調整したり中止したりする必要があります。
特に夏のような暑い時期には、高齢の患者や体重の軽い方などでは、エンパグリフロジンを導入する際に利尿薬の使用を積極的に検討すると良いでしょう。
この研究の結果が広く知られることで、利尿薬との併用によるリスクを心配しすぎてSGLT2阻害薬の導入が遅れている患者が減少することが期待されます。