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遺伝性の腎臓病と「WNTシグナル」の関係

遺伝性の腎臓病と「WNTシグナル」の関係

〜ARPKD(常染色体劣性多発性嚢胞腎)の進行と重症度に関する新しい手がかり〜

1. ARPKDとは?

常染色体劣性多発性嚢胞腎(ARPKD)は、生まれつき腎臓に多数の嚢胞(袋状のふくらみ)ができる病気です。
多くの場合、原因はPKHD1という遺伝子の異常ですが、症状の出方や進行の速さは人によって大きく異なります。

ある人は出生後すぐに透析や移植が必要になる一方で、別の人は比較的ゆっくり進行することもあります。
この「症状の違い」がなぜ起きるのかは、これまでよく分かっていませんでした。


2. 今回の研究の目的

研究チームは、

  • なぜ同じPKHD1遺伝子の異常でも症状が違うのか

  • 病気の進行に影響する“分子レベルの仕組み”は何か
    を探るために、ゲノム解析遺伝子発現解析の両方を行いました。


3. 研究の方法

  • 対象:ARPKD患者の腎臓10例と、年齢をそろえた健康な腎臓

  • 解析

    1. 全エクソーム解析(WES)
      → 遺伝子のコード領域をすべて調べ、変異を特定

    2. RNA解析(RNA-Seq)
      → 遺伝子がどのくらい働いているか(発現量)を測定

    3. 追加検証(RT-qPCR)
      → 特定の遺伝子の働きの変化を正確に確認


4. 主な発見

発見① PKHD1の変異位置は重症度と関係なし

PKHD1の変異タイプや位置は、進行の速さや重症度と直接関係がありませんでした。
つまり、PKHD1以外の要因も病気の進行に関わっている可能性があります。


発見② 他の遺伝子の関与

ARPKDの患者さんには、ほかの「繊毛(せんもう:細胞表面の小さな毛のような構造)」に関わる遺伝子にも変異が見られました。
その中でPKD1という遺伝子の変異だけが、病気の進行の速さと関連していました。


発見③ WNTシグナルの異常

遺伝子発現解析の結果、WNTシグナルに関わる多くの遺伝子が、ARPKDで通常よりも強く働いていることが分かりました。
WNTシグナルは、細胞の増殖や発達の指令を出す重要な経路で、腎臓の形づくりにも関わります。

特に、同じPKHD1変異を持つ患者さんでも、進行の速い人と遅い人では、WNTシグナル遺伝子の働き方に差がありました。


5. 何が分かったのか

  • PKHD1だけでなく、WNTシグナルの活性度が病気の重症度や進行速度に関係している可能性が高い

  • 将来的には、WNTシグナルを調整する治療がARPKDの進行を遅らせる手がかりになるかもしれない


まとめ

  • ARPKDはPKHD1遺伝子異常が原因だが、進行の速さはWNTシグナルの活性とも関係している可能性がある

  • WNTシグナルは腎臓の発達や細胞増殖を調節する重要な経路

  • この研究は、病気の進行を抑える新しい治療戦略の開発につながるかもしれない

 

Biochim Biophys Acta Mol Basis Dis . 2024 Oct;1870(7):167309. doi: 10.1016/j.bbadis.2024.167309. Epub 2024 Jun 15. Next generation sequencing identifies WNT signalling as a significant pathway in Autosomal Recessive Polycystic Kidney Disease (ARPKD) manifestation and may be linked to disease severity Taylor Richards

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