メッシュ手術とその後に起こる「痛み」のお話
― イギリスの専門外来5年間の記録から ―
メッシュ手術とは?
骨盤臓器脱や尿失禁の手術では、「メッシュ」と呼ばれる人工のネット状の素材を体の中に入れて臓器を支える方法があります。
メッシュは手術の効果を長持ちさせる可能性がある一方で、時間が経ってから問題が起こることがあります。代表的なのが慢性的な痛みや**メッシュが体の外に出てきてしまう(露出)**などです。
専門外来とは?
最近では、こうした「メッシュの合併症」に特化して診療する専門外来が世界的に増えています。普通の病院では診断や治療が難しいケースも多く、専門的な知識と経験が必要です。
今回紹介するのは、イギリスの大規模なメッシュ合併症外来で2018〜2023年の5年間にわたって集められた診療記録です。患者さんの症状や治療の流れが詳細に報告されています。
どんな患者さんが来ていたの?
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人数:5年間で 785人 の女性が受診しました。
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症状の内容:実に 92% の患者さんが「痛みのみ」を訴えていました。そのうち 54% は、他の症状(尿もれや出血など)が全くない痛み単独型でした。
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多くの方は、いくつもの病院を受診した後にようやく専門外来にたどり着いており、診断や治療までに長い時間がかかっていました。
手術を希望する人はどれくらい?
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58% の患者さんが「手術で何とかしたい」と希望しました。
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手術希望者の中では 52% が「メッシュを全部取りたい(完全摘出)」と答えています。
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部分的な除去を望む人もいましたが、「全部取ってほしい」という声が半分以上を占めたのは印象的です。
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手術の結果は?
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手術を受けた人の**合併症発生率は18%**でした。
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これは傷の治りが遅れる、感染が起きるなどを含みます。
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命に関わるような重大な合併症は0.7%(約1000人に7人)と非常に低く、安全性は比較的高いとされています。
なぜ「痛み」が多いの?
慢性疼痛は、メッシュの露出や感染よりもずっと多く見られる症状です。
理由はいくつか考えられていますが、メッシュの周りで炎症や神経の刺激が続くことが大きな原因とされています。これにより、見た目では問題がなくても強い痛みが出ることがあります。
患者さんと医療者へのメッセージ
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患者さんへ
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メッシュ手術後に続く痛みは、「年齢のせい」「仕方ない」と諦める必要はありません。
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早めにメッシュ合併症に詳しい病院を受診すれば、症状が改善する可能性があります。
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受診時には「痛みの場所」「いつから続いているか」「どんな時に強くなるか」をメモしておくと診察がスムーズです。
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医学生・若手医療者へ
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メッシュ合併症は多彩ですが、慢性疼痛が最多であることをまず押さえましょう。
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手術希望の背景には、生活の質(Quality of Life)への強い影響が隠れています。
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外科的摘出は改善の道となる一方、適応とリスク評価が重要です。特に術者の経験と施設の対応力が安全性を左右します。
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まとめ
このイギリスの研究は、「痛み単独型」患者が過半数であること、そして完全摘出を望む声が強いことを示しています。重大合併症率は0.7%と低く、安全な手術が可能な環境が整えば、多くの患者に希望を与えられる結果です。
Smith, A. B., et al. Five-year experience of a dedicated mesh complications clinic: patient characteristics, management, and outcomes. Int. Urogynecol. J. 36, 145–154 (2025). https://doi.org/10.1007/s11884-025-00772-y