人工知能で見えてきた「中絶」に関するオンライン対話のかたち
〜SNSから読み解く、多様で複雑な声〜
1. 背景
「中絶」というテーマは、長い間、賛成・反対という二分法で語られてきました。
しかし実際には、人々の意見はもっと複雑で、個人の経験や状況、価値観によって形作られます。
この研究は、SNS上のやりとりをもとに、こうした多様な考え方や情報のやりとりを可視化しようとしたものです。
2. 研究の目的
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中絶について話し合うSNSの場(Redditの特定フォーラム)で、人々がどんなテーマや感情を共有しているかを調べる
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単なる「賛成か反対か」ではなく、背景にある文脈や感情を明らかにする
3. 研究の方法
研究チームは、Redditの2つのフォーラムを対象にしました。
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r/Abortion:中絶に関する情報や体験談の共有が中心
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r/AbortionDebate:倫理・法律・価値観など多角的に意見を戦わせる場
集めた投稿数は、
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r/Abortion:2,151件
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r/AbortionDebate:2,815件
分析には自然言語処理(NLP)とニューラルネットワーク型のトピックモデリング(BERTopic)を使用。
さらに、文章の感情を数値化するセンチメント分析や、怒り・悲しみ・恐怖などの感情分類も行いました。
4. 主な結果
トピックの違い
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r/Abortion
→ 中絶に関する医療情報の共有、体験談、サポートのやり取りが多い -
r/AbortionDebate
→ 法律、倫理、宗教、社会的背景などをめぐる議論が中心
感情の傾向
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全体的な感情スコア
- r/Abortion:やや中立〜わずかにポジティブ(平均0.01)
- r/AbortionDebate:ややネガティブ寄り(平均-0.06) -
感情の種類
- ほぼ同程度の感情パターンだが、r/Abortionでは「恐怖」のスコアがやや高い(平均0.36)
意味すること
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中絶の議論は単純な立場だけでは語れない
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同じテーマでも、場によって会話のスタイルや感情の色合いが大きく異なる
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SNSは、情報共有の場であり、同時に価値観や世界観を語る場にもなっている
5. この研究の意義
この研究は、センシティブな社会問題においても、オンライン上のやりとりを分析することで、多様な意見や感情の構造を理解できることを示しました。
医療者にとっては、患者さんや一般市民がどのように情報を探し、どのような不安や価値観を持っているかを把握する手がかりになります。
また、政策立案や公衆衛生の分野でも、こうした知見は対話や情報提供の方法を改善する材料になりえます。
まとめ
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Reddit上の2つの中絶関連フォーラムをAIで分析
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情報共有型と討論型では、テーマや感情傾向が大きく異なった
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中絶に関する意見は二分法ではくくれず、経験・文脈・感情が複雑に絡み合っている
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SNS分析は医療・社会政策の新しい視点を提供する可能性がある