2020年新型コロナウイルス感染が、世界に広がった直後、イタリアにて剖検による研究がされました。当時の研究では、男性の方が約3倍の死亡率で、それは前立腺に新型コロナウイルス感染をおこしているからだというものでした。あれから約1年。本当にそのままの理論でしょうか?
当時、新型コロナウイルス感染は、前立腺がんの進展様式のひとつであるTMPRSS2遺伝子に注目していました。新しい論文ではTMPRSS2遺伝子を制御するアンドロゲン除去療法(ADT)はSARS-CoV-2の感染リスクを減らさないとの逆の結論を導いています。
Eric A Klein ら Androgen Deprivation Therapy in Men with Prostate Cancer Does Not Affect Risk of Infection with SARS-CoV-2 Journal of Urology 2021; 205: 441-443
今回の研究対象は1779人の前立腺がん患者で、うち102人(5.7%)はSARS-CoV-2感染陽性、304人(17.1%)はADT実施中でした。
前立腺がん患者のADT実施群と未実施群におけるSARS-CoV-2感染状況と重症度は、①SARS-CoV-2感染陽性率5.6%(17/304人)、5.8%(85/1475人)、②入院治療率4.3%(13/304人)、3.6%(53/1475人)、③ICU入室率1.6%)5/304人)、1.6%(23/1475人)、④死亡率2.0%(6/304人)、0.9%(13/1475人)と報告しています。
SARS-CoV-2感染陽性率とその重症化率に関係する背景因子として、高齢、喫煙者、ステロイド剤、喘息症例、免疫抑制疾患、糖尿病、高血圧、冠動脈疾患、心不全の合併比率には両群間で有意差はなかった。
(この統計は、これだけの規模の母集団にしては、因子が少ないです)
SARS-CoV-2感染陽性以外のアウトカムは統計学的なパワー不足で意味のある有意差検定ができなかったが、ADTはSARS-CoV-2感染リスクの予防効果がなかったと結論した。
さて、ここで、さらに重要な点で、論文では前立腺がんの種類を検討していないのです。前立腺がんの種類と転移状態や進行状況からすると、分類がさまざまです。残念ながらこの論文では結論を導き出すのはむずかしいです。ですが、前立腺がんが、重要な因子かどうか、まだ言い切れないことになりました。